カラの船


  昔、安島の海岸へ、異国の「カラ」から船が押し寄せて来たことがありました。
 それを知って恐れた安島の人達の中には、たいまつを作る者や、草鞋をつくる者、ドンドの穴へ隠れる者、陣ヶ岡へ逃げようといふ者などがあって村中、大騒ぎをしました。
 しかしそんなことをしていてもしょうがないので、安島の村の人々は集まって話し合い、結局、大きな木の靴を作って沖へ流すことにしました。
 船に乗ってやって来たカラの人々は、その大きな靴を見て「日本人はこんな大きな木の靴をはくのか」と言って驚きました。そこで、カラの人々は「この先、どうしたものか。遠い異国からせっかくここまでやって来たのだから、攻めて行べきくか、それとも諦めて帰るべきか」と悩み、結論が出ないまま、船は沖に浮んだまま進むわけでもなく退くわけでもなく動かなくなってしまいました。
 カラの人々がそうして悩んでいると、一隻の小舟が自分たちの船に近付いて来るのに気付きました。よく見ると小船には竿を持って釣りに行く格好をした者が一人乗っているだけでした。それに、とても大きな靴を履くような人間には見えません。安心したカラの者は、小船に乗った釣り人に、声をかけました。
 しかし、釣り人は何も答えませんでした。ただ、全てを察したのか、釣り人は持っていた竿でカラの船をチョツト押しました。すると、あっというまにカラの船は一里ばかりも向こうへ流されてしまいました。それでとうとうカラの船の者は、日本に上陸することをあきらめ、恐れをなして逃げて帰ってしまったと云われています。

 実は、この小船に乗った釣り人というのは、鯛を釣りに出かけられた雄島の神様だったということです。