福良のうはばん


昔、安島に田中さんという酒造りをしている家がありました。
その田中家の酒蔵の石垣に、二匹の小さな蛇が住んでいました。田中家の人は、この二匹の蛇がいることを知っていて、食事の残りものなど与えていました。二匹の小さな蛇は、人知れずに出て来ては与えられたものを食べていました。
 ある時、家の人が「大きくなっても人に害を加えないなら来て食べよ。しかし、もし害をするというのなら死んでしまえ。」と言って、いつものように食べ物を与えました。すると一匹の蛇は、酒蔵から飛び出して死んでしまいました。残りの一匹は、それからも食べ物を貰って、日を追うごとに段々と大きくなりましたが、決して人に害を加えることはありませんでした。
 それでもあまりに大きくなったので、村の人々が大きく成長したこの蛇を恐ろしく思い、田中家に酒を買いに来なくなってしまいました。それで田中家は困ってしまい、とうとう田中家の主人が庭に出て、この蛇に自分たちが困っている理由を話して聞かせました。
すると、うはばん(大蛇)は納得したのか、田中家を出て行き、安島と東尋坊の間にある福良と呼ばれる場所の海へ入って行ってしまいました。

それ以来、このうはばん(大蛇)を見た者はいません。
しかし、今でも福良の海に黒い筋のあるのはうはばんの通る道であると云われています。また、うはばんがこの道を通る時にはその前に知らせがあり、海の水がチクチクと刺すように痛くなるから、その時は海女達も「うはばんが通る」と言って海から陸へ上ってしまうということです。